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1:SOFIAデータを使って生成されたNASA水資源可能性マップ

月クレーター形状をベースにした火星水資源探査の機械学習

今年2024年の東京大学入学式でも宇宙飛行士候補者の米田あゆさんが祝辞を述べてらっしゃるなど、宇宙業界は最近また特に盛り上がっており宇宙関連のニュースは近年、かなり身近になってきたのではないでしょうか。
そんなわけで今回は、機械学習x宇宙という点で、「月クレーター形状をベースにした火星水資源探査の機械学習」というタイトルで一つ私が取り組んだことをご紹介します。

宇宙の新たなフロンティア:AI技術を用いた火星水資源探査

近年、宇宙探査は目覚ましい進歩を遂げ、太陽系内における水資源の探査は、人類の未来を拓く重要なテーマとなっています。特に、火星における水資源の存在は、将来の有人探査や持続可能な宇宙開発にとって極めて重要です。

しかしながら、火星の表面水資源の確認はこれまで困難を極めていました。従来の画像処理技術では、火星表面の複雑な地形や環境の影響を受け、確実な水資源の検出が難しかったのです。

そこで本研究では、AI技術を用いた革新的な手法を開発し、火星における水資源探査に新たな可能性を切り拓きます。具体的には、画像認識技術であるYOLOv8と、機械学習プラットフォームであるroboflowを活用し、すでにある程度ほかの研究者の方の尽力により推定されている月のクレーターから得られた水資源データに基づいて火星表面の画像を分析しました。

※クレーターと水資源には必ずしも関係があると現時点では申し上げられませんが、水資源のきっかけとなるような可能性が隕石追突によるものから、関係性があることが推定されます。例えば、水分を含めた隕石が飛んできている、あるいは、隕石自信が追突したことによりクラックが入るから、等

データセットに用いた画像と手法:YOLOv8・roboflow

月のクレーターに関するデータをAIに学習させ、その知識を火星探査機から得られた画像に適用することで、火星における水資源の可能性を予測することができます。具体的には、以下の手法が用いられます。

  1. 月のクレーターからのデータ分析:月のクレーターからの水の存在に関する既存のデータセットを収集し、これを基にデータ分析を行う。クレーター領域における水の分布や濃度に関するパターンを抽出することで、火星における類似のパターンを予測する。
  2. 火星の衛星データの利用:火星の衛星から得られた多光谱画像やレーダーデータなどを活用し、クレーター領域における特定の水の指標を検出する。これにより、火星のクレーターに潜む水資源を同定し、その分布を詳細にマッピングする。
  3. 機械学習アルゴリズムの適用:月のデータと火星の衛星データを統合し、機械学習アルゴリズムを適用する。これにより、火星のクレーター領域における水の予測モデルを構築し、未知の地域における水の存在を予測する。
  4. 結果の解釈と比較:提案手法によって得られた結果を、既知の水の分布や他の探査データと照らし合わせながら検証する。さらに、水資源の存在が確認された場合、その量や利用可能性についての詳細な解釈を行う。

月のクレーターのデータはNASAの下記のデータをもとに、クレーター部分を切り取り学習をさせました。

図1:SOFIAデータを使って生成されたNASA水資源可能性マップ 図1:SOFIAデータを使って生成されたNASA水資源可能性マップ
(https://moon.nasa.gov/inside-and-out/composition/water-and-ices/#:~:text=In%202020%2C%20NASA%20announced%20the、soil%20across%20the%20lunar%20surface)

今回の分類は下記のとおりです。
表1:月データ学習のクレーター画像クラス分け
表1:月データ学習のクレーター画像クラス分け

本水資源の蓄積の情報については、一枚の画像で学習させるわけではなく、クレーター毎に画像を下記のように分けました。いわゆるデータ拡張というものです。合計の学習元の画像枚数は55枚となった。カラー閾値については図1の右下部分にあるカラーバーを参考にし、青茶色6枚、茶色6枚、濃青色5枚、3、水色部分が28枚、青7枚を切り取りました。データ拡張は過学習対策にも有効であるため、また今回はそれほど大きなデータ元を取り扱うわけでもないため、このような手法を取りました。データ元のデータはroboflow上でランダムに訓練データ7割、バリデーション2割、テスト1割に振り分けました。結果的に訓練セットは88%で102枚、バリデーションは8%で9枚、テストセットは4%で5枚となりました。

火星表面のデータについては、候補としてはESAのMars Express、NASAのローバーから見たMars 2020 Mission、インドのMOM – Mars Orbiter Mission、アラブのEmirates Mars Mission (EMM)、中国の  Tianwen 1、NASA MMGISなどが存在します。しかし今回は、すでにデータベースとして一般的にも活用可能なものを優先させることとし、Googleが提供しているGoogle Mars(https://www.google.com/mars/)のInfrared、視覚的写真、そして標高差で色付けされた三つの画像データで比較、結果を採取することにしました。

Roboflowとは

Roboflowは、画像・動画データのアノテーション、AIモデルの学習、デプロイまでを一括で行えるAI開発プラットフォームです。ブラウザ上で利用できるため、プログラミング知識がなくても簡単にAIモデルを構築することができます。

YOLOv8とは

YOLOv8は、2023年1月に公開されたリアルタイム物体検出のためのオープンソースモデルです。従来のYOLOシリーズの最新バージョンであり、速度と精度の両面で最先端の性能を実現しています。

出てきた結果:結果は画像データによって変化

火星の画像を取り込ませた結果、検知したものはベースとなる画像データによって変化がありました。

じつは、すでに2023年10月にNASAが発表した火星の水資源分布マップが存在しています。本研究ではすでにNASAが作成したSWIM MAPとの整合性とどれほどとれているのかを確認していきましょう。

図2: NASAが作成した火星の推定水資源分布MARS WATER RESOURCE MAP によるSWIM MAP(氷を含む).青部分が水資源の可能性を示唆する
図2: NASAが作成した火星の推定水資源分布MARS WATER RESOURCE MAP によるSWIM MAP(氷を含む)。青部分が水資源の可能性を示唆する
(https://mars.nasa.gov/resources/27750/swim-map-shows-subsurface-water-ice-on-mars/ ) 。

赤外線画像からは,ほぼグレースケールであるにもかかわらず,Deepblue部分の結果を上手く出しているように見受けられます。一方,茶色部分の検出は色による誤検出が観察されていると言えそうです。

また,3つの画像の中でも特に赤外線画像が一番信頼を得られる結果となったように見受けられました。

図3:Google Mars Visibleの結果
図3:Google Mars Visibleの結果

図4:Google Mars Elevationの結果
図4:Google Mars Elevationの結果

図5:Google Mars Infraredの結果
図5:Google Mars Infraredの結果

これができたら何で嬉しい?

月のクレーターは、太陽系内における水資源の存在が確認されている場所の一つです。

  • AI技術を用いた高精度な分析: YOLOv8とroboflowという最先端のAI技術を用いることで、従来の画像処理技術では困難だった高精度な分析を実現します。
  • 月のクレーターデータに基づいた学習: 月のクレーターから得られた水資源データに基づいて学習を行うことで、火星のクレーター領域における水の痕跡を効率的に検出することができるかもしれません。
  • 新たな水資源探査の可能性: 本研究で開発された手法は、火星だけでなく、他の惑星や天体における水資源探査にも応用することが可能であり、宇宙探査の進展に大きく貢献することが期待されます。

おわりに

宇宙とデータサイエンスはこれから特に大きく盛り上がっていく分野だと思います。
本実験は,実際に精度の高いとされている手法が分析に時間がかかる場合、代替案としてある程度の精度を持ってクレーターの画像認識を頼りに地下水の場所をある程度目星を付けることに活用できることができるといえるかもしれません。
水資源探査はロマンがたくさん。これを読んで少しでもほかに新たに関心を持った方がいらっしゃると嬉しいです。

岡田 実奈美 2024年5月13日

スーパーデータサイエンスアワード2023年度春学期
スーパーデータサイエンスアワード2023年度秋学期

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